携帯メーカー3社が共同で新会社設立。どう考えたって携帯メーカーの未来はジリ貧・・・かどうかを検証する試金石。

撤退ばかりではつまらないと思っていたら、NEC、カシオ、日立が共同出資の新会社を立ち上げるとのことで、これは注目のケーススタディだ。

「国内に携帯8社は多すぎる」NEC、カシオ、日立、携帯統合で海外市場へ(ITmedia)

国内携帯8社が多すぎるというのはそのとおりで、というよりも電機メーカーが一国内にこれだけひしめきあって、それぞれが総合家電メーカーチックな事業展開をしているのは世界でも日本だけ。あらゆる家電がコモディティ化してしまった現状、これでは狂気の沙汰なので、携帯に限らず、家電業界全般に吸収合併や新会社設立の動きは広まっていくと思う。

ともあれ2012年に、国内700万台、海外700万台(うち米国500万台)が目標らしいが、いったいどのへんの市場を狙っていくんだろうか?

※記事の最初の方では海外500万台とあってどちらが本当か不明だがともかくその辺の数字だ

従来のいわゆるガラパゴス携帯路線を続けていくのなら国内700万台は現実的な目標だと感じる一方で、海外700万台はいかにも厳しい。海外向けには Android なり Windows Mobile なりのスマートフォンを供給するんだろうけど、国内と海外で開発リソースを分けざるを得ず、せっかくの新会社設立による効率化のメリットが半減してしまう。
中長期的に、かつ世界市場を相手にしていくというのなら、最初からスマートフォン一本に絞るべきなんだろうけど、国内では iPhone の約100万台+αというのがスマートフォン市場のほぼ全てなので、今後成長が見込まれるといっても、それを待ったり自ら市場を育てるほど新会社の体力も続かないだろう。というか国内目標700万台と言っている時点でそういう選択肢はないか。

実は国内700万台も厳しかったり。

国内700万台は「現実的」と書いたが、これも冷静に考えるとどうだろう?国内携帯市場は、2007年が5076万台で、2008年が3589万台だそうだ。1億人が2年に一回買い替えていたのが3年に1回のペースに落ちたわけだが、ワンセグ、fericaも一段落して新しいバリューを提供できなくなると、4年に1回2500万台くらいのペースになっていくんだろうか?そこまで落ちないのかな?

ともあれシュリンクする市場。それをさらにスマートフォンに食われつつある中で700万台だから、これもなかなか大変な数字。さんざんキャリアに苦しめられてきたはずの「春モデル・夏モデル・秋冬モデル」サイクルをさらに全力でまわし続けなければならず、そんな中でなおスマートフォンを開発する余力があるのだろうか。国内700万台を達成できたとしても、利益率はおそらく相当低い。新会社としては、国内で高いシェアを奪い収益力を高めた上で、そこで得た資金を海外にまわしていきたいんだろうけど・・・。

もちろん海外でもスマートフォンの割合というのはごく一部で、それ以外の携帯市場のほうがはるかに大きい訳だけど、そのへんの市場はたぶん、中国・台湾・インドあたりのメーカーが強くなっていくだろうから参入には今さら感が漂うし、世界で700万台程度の事業規模では価格面でまったく歯が立たないんじゃないだろうか?

そんなわけで悲観的なことばかり書いているが、バラバラにやるより一緒にやった方がいいのは明らかなので、要注目なのは間違いない。さらなる他メーカーの合流についても「検討する価値はある」と言っていることから、きっと新会社の人たちも厳しいのは百も承知なんだろう。どうせ一社で続けててもジリ貧ということで始める新会社なのだから、これまでの日本の携帯メーカーがやってこなかったことを期待したい。

どうなんだろう?そろそろキャリアの販売戦略にお付き合いしなくてもいいと思うんだけど。

キャリアに喧嘩売るようなメーカーはないの?

・・・っていうのは過激な表現だけれど、でもキャリア-メーカー連合システムは10年以上前から続く、まだ携帯電話に夢と希望がいっぱい詰まっていたころの遺物でしょう?「メーカーのみなさん、我がキャリアに携帯電話を供給してガッポリ儲けませんか?これからガンガン成長する超有望市場です。我々の言うことは聞いていただきますが、その方が販促面でもコストメリットありますしシナジー効果でウィンウィンなブルーオーシャンですよ☆」とかなんとかいって始まったものだと思うんだ。

で、周知のとおりそういう時代は終わった(というか結局来なかったとも)。本当は国内市場という産みの苦しみを伴う第1弾ロケットの先には、無限に広がる海外市場という第2弾ロケットがあったはずなんだけど、ドコモの海外展開がコケて、メーカーからすれば「こんなはずじゃ」といったところだ。つまりキャリアに義理立てする理由がなくなりつつある。

テレビ、ラジオ、ビデオ、オーディオ、スチルカメラ、ビデオカメラ、その他家電全般を売りに売りまくってきた日本メーカーだけど、製品単体では成り立たない携帯電話機でまさかの大コケをした。そろいもそろって雁首そろえて。考えてみればこれはすごいことだ。ダメだと言われるPCでさえ、まだ世界でそれなりのプレゼンスを持つメーカーは存在するというのに。日本の携帯は世界でも類を見ないほど高度に進化しているわけだけど、iモードもfericaもワンセグも、残念ながら海外では展開できない。つまりせっかくの高度な技術を活かせない。

近い将来 iPhoneFlash 対応して、モバゲーとグリーが完全 iPhone 対応して(この2社が海外展開に野心的ならするだろう。普通に考えて)、絵文字がワールドワイドで使えるようになって、なおかつ多色展開のスリムでキュートな iPhone が登場したら、iPod mini で携帯音楽プレーヤー業界に起こったことが、携帯電話業界でそっくり再現されても不思議ではない。

それに、もしこの世に iPhone が存在してなくても日本の携帯メーカーの危機的状況はなんら変わりがないというのも辛いところだ。そんな、撤退することが実に妥当な判断であるとしか言えないような市場環境の中で、少なくともこの3社は生き残るという選択をしたわけだ。

日本に都銀は3つで十分ということが証明されたように、電機メーカー(携帯メーカー)も3つくらいで十分、あるいは各メーカーが互いに競合しすぎないよう、それぞれの得意分野に特化してグローバル市場で圧倒的な競争力を持つ、こんなのが日本の製造業の中期的落としどころだと思う。この3社連合も、当面は国内の数字の足し算でなんとか生き延びようと考えるのは仕方がないけれど、その先はぜひ世界市場で通用する、息が長くて高いブランド力を持つ製品を送り出してほしい。

なんかさくっとひとことコメントしようと思ってたのに、とんだエセ小論文になってしまった。くわばらくわばら。