Webの標準化が進むいっぽうで、モバイルアプリはクローズドに進化している件

ひところのブラウザ戦争というユーザにとってもクリエイターにとっても不幸せな時代を経て、最近のWebは標準化が進み、どのブラウザでもどのOSでも、同じ情報にアクセスできる環境がほぼ整ってきた。

また、Googleを筆頭とする各種Webサービスも進化して、メール、アドレス帳、スケジュール、ToDo、写真、動画、ドキュメント、ブックマーク、ストレージなど、今までローカルPC上でやっていたことが、オンラインでも出来るようになってきた。

標準化とWebサービスの進化により「スピード」がブラウザの最も大切な機能だと見なされるようになり、独自機能を競う時代から、速さを競う時代になった。マイクロソフト以外の誰にとっても幸せな戦争が第2次ブラウザ戦争だ。

ユーザはどこにいてもどのPCでも、自分の情報を取り出せるし、使い勝手やサクサク感もローカルアプリに近づいている。しかも、どんな環境でも同じ使い勝手で利用できるという点ではローカルアプリに勝る。

このことはユーザだけでなく、開発者やクリエイターにとってもメリットとなった。Web標準に準拠して作れば、ほぼすべてのユーザにリーチできるからだ。Web標準に関連する技術だけをキャッチアップしていこうと心に誓った開発者やクリエイターは多いはずだ。

ところが、iPhoneの登場で事情がちょっと変わってしまった。iPhoneアプリの開発は、Web標準技術とは基本的には関係がないので今までの蓄積が役に立たない。マーケットはまだ小さいが、成長スピードを見ているととても無視するわけにもいかなさそうだ。全体のパイが増えない限り、モバイル需要が高まるということは、PC向けのWeb需要が低下するということだからだ。なにより開発者やクリエイター本人が、iPhoneを所有していて、iPhoneアプリの便利さに感動してしまっている。

でも使って感動するのと作るのとでは話が別で、本当にiPhoneに手を出していいのか、その分、Web関連の技術習得に費やす時間を削ってまで取り組む価値があるのかという問題がつきまとう。今まで「英語が大事、外国語を身につけるならまず英語!」といわれていたのに、ある日突然「これからはスワヒリ語だ!」と言われているような状況だ。

さらにAndroidが登場し、Windows Phoneも発表された。今年はタブレット(もう「スレート slate」と言った方がいいのか?)デバイス向けのプラットフォームも出てくる。それらをすべてカバーしうる技術として、FlashAIRSilverlightという選択肢もありうる。

そんなわけで、重要な選択を迫られてる。私も年始の「やりたいこと」に「iPhoneアプリ開発」と書いてその気持ちはとりあえず変わっていないが、AndroidWindows Phoneにもアンテナをはりつつ・・・ということになりそうだ。

逆にいうと選択さえ誤らなければ、大きなアドバンテージになる。標準化ということはコモディティ化ということであり、参入障壁も下がれば価格も下がる。それに対して、個別のモバイルアプリ市場は、Webほど簡単には標準化しないだろう。Webと各種モバイルプラットフォームに作り手が分散することで、全体としても過度の低価格化は避けられるのかもしれない。

もちろん、どんなプラットフォームでも必要となるデザインスキルは一番大事なもので、それありきで、どのプラットフォームを選ぶかという問題だ。UI設計を含めたデザインスキルだけは今のところコモディティ化することはなさそうだし、無料の格好悪いアプリよりも、100円の格好良いアプリを選ぶ人もいるだろう。

生活のかかっているシビアな問題ではあるが、1ユーザとしては楽しい状況。そんな微妙な精神状態が、今後数年間続きそうだ。

以下余談。

モバイルアプリ市場は標準化しづらいと書いたが、アプリの価格については、ゼロ円アプリによる市場のレッドオーシャン化という問題はあり、こちらも興味深い。iPhoneアプリ開発に企業として取り組むなら、アプリ自体は「広告塔」として割りきり、クライアントワークとして特定企業のためのアプリ開発を受注したほうがよさそうだ。しかしシングルタスクアプリやジョークアプリならともかく、本当に価値あるアプリをゼロ円や100円で出されると、周りの企業はたまったものではないだろう。しかも戦略的価格としてゼロ円、100円で提供するならよいが、単なる投げ売りになってしまっている格安アプリも多そうだ。