ヤフーショッピング無料化に思うこと

ヤフーショッピングが出店料や販売手数料などの無料化を発表した。
これによりヤフージャパンは短期的に二桁億円の減収になるということだが、中長期的には出店数が増加し品揃えが豊富になることで媒体としての価値が高まり、広告収入等で今以上の収益を目指すという話。

孫社長の相変わらず上手な発表の仕方もあるのか、世間一般の反応としては「ヤフーが楽天をつぶしにかかった」という捉え方をされているようだが、この評価は少々過大ではないかと思う。決して軽い発表ではないことは事実だが、たぶん、実態に即した評価とはいえない。

無料じゃない

「無料」という言葉に引きずられて勘違いしそうになるが、今回のヤフーショッピングの発表は、出店料・販売手数料・広告等で稼いでいた売り上げを、主に広告に一本化して稼ぐようにしますよという話だ。広告を出すのは出店者自身で、もちろん出さなければ無料だが、ヤフーショッピング自らが広告で稼ぎまっせーと明言している以上は広告出稿店舗はそれなりに今まで以上に優遇されるだろうし、広告を出さない店舗はこれまで以上に集客できなくなる。
「このお店でしか売っていない」「このお店でしか買いたくない」というような強烈なブランド力を持つ店舗以外、つまりほとんどの店舗は、浮いたお金を全額広告につぎ込むくらいの覚悟は必要だろう。
孫社長の発表で古来から続くショバ代ビジネスの例えが出ていたけれど、今後のヤフーショッピングにおいては、ショバ代は貰わないかわりに広告料払わないアンタのお店はモールのすっげーーー奥の薄暗い一角に押し込んで看板も取り外させてもらいますねーーー、とこのくらいの仕打ちを受けてしまうのだと、実際はわからないがそのくらいに考えてちょうどいいのではないか?そう考えるとこれはもう紛れも無く広告料=ショバ代だ。
そういうわけで今回の発表で「無料」というのはメイントピックではないと私は考えている。

評価できること

いっぽうで外部サイトへの誘導や顧客へのメール送信を許可したのは手放しで喜んでいい。出店者としてデメリットがなにもない。
もちろん顧客がヤフーショッピングで買いたくなるように、ヤフーとしては各種ポイント連携を強化したり、シームレスで購入しやすいようユーザインタフェースを改良したり、なるべく外部(出店者の本サイト等)へ逃げないように手を打つだろうが、これは本来顧客にとっても出店者にとっても悪いことではない。
出店者としてはこれまで「販売手数料をポータルにとられたくないからなるべく本サイトへ誘導したい」というモチベーションが常にあったが、ヤフーショッピングでは販売手数料が無料なのでそれがなくなる。ヤフーでどうぞというわけだ(ただ前述のように販売手数料の代わりに広告費が増えるだけという可能性もあるが、それでも外部サイトリンクOKのメリットが消えるわけではない)。
顧客へのメール送信については、本当になんの縛りもないのかわからないが、そうだとすれば英断だ。

とりあえずのまとめ

あんまりまとまってないけどまとめ。
総じて言うと、お店の立場では「出店してもいいかな?」と検討する余地は十分に出てきた。ヤフーショッピングとしてもまずはお店にそう思ってもらうことが第一歩だ。
この一歩の意味を別の角度から見てみる。
ECサイトを、楽天ヤフーアマゾンのようなポータル型と、GMOメークショップ、ペパボのカラーミーショップ等や最近話題のStores.jpやBASE等のASP型の2種類にわけたとき、ポータル型の特徴は固定費が高く自由がきかないが集客に優れ、ASP型は固定費が安く自由だが集客が弱いということになる(自社開発型等はここでは考慮しない)。
今までのヤフーショッピングは、ポータル型で必須の集客力が弱いくせに、固定費と自由度はASP型に負けるという、いいとこ無しの丸出ダメ子ちゃんだった。

今回、無料&自由にしちゃいますというのは、見方を変えるとASP型に近づける施策であって、実際多くのASP型は危機感を抱いていると思うが、それに加え集客も天下のヤフーが本腰を入れそうな気配である。これで集客力もあり安くて自由なイイトコどりの素晴らしいサービスがついに登場・・・!とはならないが(たぶん大して安くならないので)、安く見せかけて出店を促し活性化して集客につなげる・・・こんな絵をヤフージャパンは描いていて、孫社長が「革命」というほど大層なものではないが、ヤフーとしては打てる手を打った着実な一歩だと言える。

楽天アマゾンに負けてるとは言え、EC市場全体としては伸びる傾向は疑いようもなく、そこに親玉自らプレゼンしてテコ入れに乗り出してきたというのは、ここに力を入れますよというメッセージに他ならず非常に期待がもてる。歴史をひもといて地代だの小作農だのやり出したときには若干苦笑してしまったが、そうやって孫社長が革命だとぶち上げることも戦略のひとつということだ。

最後になるが、ヤフーはショッピングポータル事業の売上比率が低いため多少冒険して失敗しても立て直しが効くというライバルにはない強み(?)を持つ。個人的には、「無料」というのは市場をその気にさせるバズワードにとどめてもらって、革命の本丸はこの強みを最大限発揮し、効率的で本当に役に立つリコメンドやそれをベースにした読む気になるメルマガ、商品カテゴリごとに最適化されたドリルダウン検索、心地よくてスムーズな購入UI・・・等々をガンガン導入してもらって多少の混乱をも顧みず攻めて市場を勝ち取って欲しい。うーん、そこまでは無理かな・・・w