月6万でフィリピン人住み込みメイド雇うことの妥当性について

これ(http://togetter.com/li/1053513)について。途上国出身の住み込みメイドを月6万で雇うのは搾取であるといった批判もなされているが、そうかなとも思う反面、そうでもないかなと思うところもあり少し考えてみる。なお欧米諸国やアジアの富裕層の間でメイドを雇う習慣がわりと定着しているのは聞くが実情を知らないのでその辺の比較はできない。

報酬と役務

前提として住み込みとのことなので食と住を別途提供された上での月6万ということに留意する必要がある。月6万+食住、これが報酬である。
次に負うべき役務だが、元ツイートからするとこんなところのようだ。

  • 拘束時間、朝6時半から夜8時半(住み込みなので通勤時間なし)
  • 子供の世話(年齢ははっきり書いてないが「子供できたら」とも書いているし「食後のぐぶぐぶ」が何のことかわからないがゲップさせることを指すなら乳児から?)
  • 掃除(床は日に3度掃除、絶え間なく片付けて家中すっきり)
  • 料理
  • 洗濯
  • 休日は不明(仮に月20日とおく)

時給にすると?

1日14時間*月20日なので、単純に金銭的報酬だけで考えると月6万÷(14h*20日)=時間当り214円である(乳幼児が居るので休憩はゼロと考える)。
次に非金銭的報酬である食と住も加味する。普通に一人暮らしをしたと考えると食費で1.5〜3万、住居費で5万〜8万、水道光熱費で1万、その他ハウスキーピング雑貨類でいくらか。ここではえいやーで合計10万相当の非金銭的報酬を得ているとしよう。
再度時給を計算する。6万+10万=16万。16万÷(14h*20日)=571円。

その他の要因としては、雇用主と同居するという気詰まり感はマイナスだが、いっぽうで安全面では女性の一人暮らし(と一人暮らし用の安い賃貸)とは比較にならないほど安心できる。数値化が難しいが「ルームシェアで分譲マンション賃貸物件に住む」と考えると家賃12〜16万をシェアして半額といったところか。まあ上の想定の範囲に収まりそうである。

日本の家事代行サービスと比較すると?

こちらのキッズベビーシッター&家事代行業者(http://docomo-anshinpartner.jp/housework/kids_babysitter/#select02)によると「1回あたり3時間/月4回利用した場合」32,457円で時間当り2,705円である(このうち実際にきてくれる人が手にする金額はこの半分かせいぜい1,500円くらいだろうか?)。

その他、考慮すべき点

ツイッターはてブで散見された意見がこのメイド氏と氏の家族の幸せは?という指摘である。たしかに上の条件だと氏が自らの家庭を持ち子供を産み育てる余地は皆無。これに対しては「若い女性が結婚する前の一時期にやる仕事としてなら問題ない」「子育ても終わり夫とも別れた(先立たれた)女性の自立手段としてなら有り」という反論もありうるが、実際問題として出稼ぎにくるのがそのような独身女性ばかりかというとそんなことはなく、母国に子供を置いて来た母親が相当数いるようである(むしろこのパターンが大半?よくわからない)。
また仮に独身の若い女性だとしても、彼女が結婚前にすべきことはまず勉強ないし職業訓練であり、卒業したらそれを活かした仕事に就くことである。平日14時間拘束されては学校にも通えないし、別の仕事のための訓練も受けられない。
彼女らは先進国では当たり前とされる幸せを放棄して出稼ぎに来ている。なぜかというとそうしないと自分と家族が生活できないからである。

で、月6万は妥当なのか?

食住を加味しても時給570円〜、多く見積もっても600円は日本では不当に安い報酬と言わざるをえない。ちなみに時給1,000円相当を払おうとすると、月6万の金銭的報酬を月18万にしなくてはならず((10万+18万)÷(14h*20日)=時給1000円)、プチ富裕層レベルでは手が出ない金額となる。それでも職責と拘束時間と(おそらくは)社会保障外という事情まで加味すると被用者側から見るとまるで見合わない可能性が高く、結局のところ途上国の安い労働力に甘えているに過ぎない。
雇用主はおそらくまずその自覚を持つことが肝要で、「途上国の人々に仕事と恵まれた食と住居と安全を提供し、自分たちは家事育児と仕事が両立できてWin-Win」などという認識を持っているとしたら、少々自分に都合がよすぎる解釈であろう。
被用者は立場上あるいは本心から雇用者に感謝の意を表したりもするのだろうが、それで「ちょっといいことしてあげてる感」を得て無邪気に気持ち良くなってよいものか?被用者やその家族の自立支援、自己実現支援まで踏み込みでもしない限りは、依然として借りがある状況なのは確かである。

自分ならこの仕事をやるか?

自分が教育を受けておらず、身元もはっきりせず、頼れる身内が居ない立場なら、次の条件が通るならやる(時給は変えないとして)。

  • 1日3回も床掃除しない(笑)。
  • 私が病気、ケガしたら医療費を払うこと。契約前に私に健康診断を受けさせること(自らが健康保険使えない立場の場合)。
  • 二人で住み込んで1日交代あるいは、半日交代でやる。食住提供なら半額の3万でも構わない(金よりも自己投資の時間が欲しい)。
  • 子供や住居になにかあっても一切責任は負わない(負えるような報酬ではないし、そのための専門訓練も受けていない)。
  • 監視カメラを複数設置して私の行動を記録すること(正直嫌だが何かあったときに自分の身を守るためには必要)。

しかし教育を受けておらず、身元もはっきりせず、頼れる身内が居ない状況の自分がこんな条件を出せるか(思いつくか)というと絶対に無理。結局日銭は稼げるかもしれないがそれで終わりだし、何かあって責を負うリスクは丸抱えである。この条件書いてて思ったが結局これは「俺ならやらない」と言ってるのと同じである。

まとめ

「日本でももっとメイド/ナニー/家政婦を活用しよう!」という言説は、日本で女性の社会進出が遅れている事実とあわせて語られることが多い。しかし上記を踏まえると「途上国メイドの活用」とは、日本社会が日本人女性から搾取していたなにがしかを、途上国女性に肩代わりさせることに他ならない。欧米諸国や香港、シンガポールの「女性の社会進出」がメイドを活用することで成り立っているのであれば、それは合理的ではあるが善ではないし、少なくとも「日本は遅れてますよ」と偉そうに言うほどのものではなさそうだ(冒頭で比較できないと書いたとおりこの辺は自信がない)。

昨今さかんに議論されている外国人家政婦の受け入れに関する法整備が進み、フィリピンなどから大量に外国人家政婦が正規の手続きで入ってくれば、日本の少子化は間違いなく改善すると思われる。これが単なる途上国搾取にならないよう、政府は彼女らの基本的人権を確保し社会保障と待遇条件を定め、搾取の穴を税金で埋めるべく手当を講じる必要がある。雇用環境がよければ早期に家族の待つ母国に帰ることもできるし、あるいは本人なり子息なりが日本で高等教育を受け日本社会に還元する道も拓けよう。

大学生の小論文みたいな締めになってしまったが、まずは問題を考えていくとっかかりとして今後も継続的にウォッチしていきたい。