iPhoneOS 4ではiBooksにも対応ということなので、日本における電子出版ビジネスをざっくり試算してみる。

iPhoneOS 4が各方面に与える影響ということで、前の記事ではネット広告業界(=Google)を考えてみたが、この記事では日本における出版業界と電子出版について。

iPhoneOS 4ではiBooksにも対応ということで、これは個人的にはとても嬉しい。

日本では(業界事情的に)時間かかりそうといわれてる電子出版だけど、池田信夫氏が何か画策しているようだし、インディーズ出版(?)的な市場が形成されたら面白いなーーー、と思う。Ustreamで放送革命だみたいなことがいわれているけど、画期的な視聴者数を獲得したと話題になった例のUstream放送でも、ピーク時で1万人、合計14万人ということだ。長期的にはともかく、短期的には出版分野の方が、「革命的」な業界再編が起こる可能性が高い。

出版社の力に頼らずとも本が売れる著者(ブランド力があるか自前メディアを持ってるか)と、高収入を棒に振ってでも電子出版に賭けたいというやり手編集者が出会えば、そんなに気張らずともフツーに電子出版でやっていけそうな気もするが、そう簡単にはいかないか?ちょっと計算してみよう。

iPhoneの国内ユーザ200万人(今年中に300万人いくのかな?)、iPadユーザは分からないが大部分がiPhoneユーザとかぶるだろうからここでは無視する。で、200人にひとりが購入する本を出せば1万部から1.5万部となる。200人にひとりが妥当かどうかだが、現状ではiPhoneユーザがターゲットというだけでかなりユーザ属性は絞られるから、テーマを吟味すればそのくらいのコンバージョンを狙ってもあながち夢物語でもないだろう(ちなみに200人にひとりというのは1億人なら50万部の大ベストセラー)。

一冊500円で売ったとして、出版側は70%(だっけ?)だから1.5万部×500円×70%=5,250,000円也。これを著者ひとり、編集者ひとりで分け合う計算になる。倍売れるか倍の値段で売ったら1050万になる。

気合の入った本(というか商用に普通に耐えうる体裁で出したい本)ならここにデザイナーや校正も絡んでくるが、電子出版黎明期は文字組みや装丁(って電子出版でも言うのかな?)が甘くてもゴメンナサイで出すのもアリだと思う。ある程度批判は浴びるだろうけど、覚悟の上で低コスト高収益を狙って欲しい。特に校正については、電子出版ならばあとからいくらでも(?)訂正が可能と思われるから、割りきって構わないだろう。それよりもコストとスピードを優先するのが、電子出版においては合理的なやり方だと思う(この辺の考え方は出版業界や本を愛する人からすれば非常識なのだろうけど)。

ちなみに普通の新刊本だと1600円だとして10%が著者のもとに入る。50万部売れると8000万円。さすがに50万部は虫がよすぎるから5万部だとしても800万円だ。ここには編集やデザイン費は含まれないからこれが全額著者の元に入る。印税がたとえ安くてもユーザーベースはやっぱり大事だなというほかない。がしかし、iBooks市場におけるたった200から300万人のユーザ数でもなんとか将来への種まき込みで勝負してみようかという気にはなるぐらいの収益を(素人の皮算用にせよ)出せるのだから、やはり電子出版のポテンシャルは相当なものだと言えるだろう。

広告についてはさすがにバンバン広告を出せそうな収益ではないから、著者のブログなりクチコミなりに頼ることになるが、iPhoneユーザとの相性はよさそうなのでそれだけでもある程度露出は確保できるんじゃないか。

次に、可能性だけでなく実際に電子出版オンリーでやっていこうと考えるのは現実的かどうかについて。
印税は70%と既存市場(10%)の7倍だが、一冊当りの単価は半分から3分の1になるとすると、3.5倍から2.3倍の収益率である(ただし編集者やデザイナーが絡む場合はもっと下がる)。ということは、著者からみて同じくらいの市場規模となると、iPhoneiPadKindle等の電子ブックユーザ数は3000万から5000万人は必要ということになって、一気にハードルは上がる。

日本人著者の場合、海外に読者を求めるというわけにもいかない。翻訳コストもそうだが、おそらく日本では有名な著者であっても海外で同じくらい知られている人というのはほとんどいないだろう。英語でブログを運営していて、それが海外でもかなり人気があるというレベルであれば、逆に大チャンス到来となるが。。。この点では、翻訳コストが(本と比べて)低く海外でも勝負しやすいアプリ市場とは大きく異なる。

iBooksにせよKindleにせよ電子出版市場が国内3000万人規模になるにはまだ数年から十数年は要すると考えられるが、それまでの「繋ぎ」を考えるのであれば紙の出版社とも仲良くしないといけないわけで、著作活動オンリーの著者の場合は、自分のポジショニングを注意深くコントロールすることが求められそうだ。

逆に別途しっかりしたビジネスを持っていて、著作活動は副業という位置づけの著者ならば、早いうちから「電子出版完全移行宣言」みたいなことをやって注目を集めてみたり等、色々と楽しめるかもしれない。

なおアメリカでは日本における取次のような力をもった流通業者がいないようなので、すでに出版社が率先して電子出版に取り組んでいるようだ。日本の出版社が電子出版に取り組もうとすると、必然的に「取次いらなくね?」という展開になってしまうため、日本における電子出版の黎明期というのはどうしてもインディーズ草の根ゲリラ戦法的な活動になると思われます。